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米国におけるインターネットに関する訴訟の現状
 -日本企業が留意すべきいくつかの論点-
 
ジェトロセンサー 2000年4月号所収
めに

ここ数年のインターネットの普及は目を見張るものがある。ウェブサイトを持つ日本企業の数も急増し、英文のホームページを併用する企業も増えている。かかるインターネットの利用は、日本にいながらにして海外の顧客に広告、販売等を行えるという大きなメリットがある反面、紛争に巻き込まれる可能性も増大させている。日本では、まだ、インターネットにまつわる訴訟の数はごく僅かであるが、米国では、インターネットに関する訴訟がここ1、2年で急増している。米国からもアクセスされる可能性のあるウェブサイトを有する企業[i]は、かかる問題を認識し、米国での訴訟に巻き込まれないように注意すべきである。

米国におけるインターネット訴訟に関する裁判例は多岐に渡るが、以下では、紙面の都合上、日本企業が留意すべき主要な問題点を論じる。

本企業も米国で訴えられる可能性があるのか?
例えば、米国に子会社や支店を有しない日本企業Yの英文のウェブサイトを見て商品を購入したNY州の住民Xが、その商品に不満を持ちNY州の裁判所でYに対して訴訟を提起するということが可能であろうか。これは、裁判所がその管轄地(この場合はNY州)に属さない被告に対して裁判管轄権を行使できるかという問題となる。一般的には、その管轄地内に支店等を有していなくとも、その管轄地に「最低限度の関わり」を有していればよいと考えられている。そこで、その地域からアクセス可能なウェブサイトを有していることがこの「最低限度の関わり」に該当するかが問題となる。この点について米国の裁判所では、以下のようにウェブサイトを3つのカテゴリーに分類するZippo事件[ii]で確立された手法が一般化しつつある。
1.動的ウェブサイト(passive website)
単に情報を掲示するだけの受動的ウェブサイトを運営しているだけでは、米国の裁判所の管轄権に服さない。単に商品の広告・宣伝をしているに過ぎないウェブサイトやFTP(File Transfer Protocol)を通じてファイルのやり取りを可能にしているウェブサイトは、このカテゴリーに分類されている。[iii]
2.互活動的なウェブサイト(interactive website)
逆に、利用者との間でオンラインで契約を締結したり、電子取引を行ったりすることを可能にする相互活動的なウェブサイトを運営している者に対しては、米国の裁判所が管轄権を行使することが可能となる。オンライン・ショッピングを可能とするウェブサイトやウェブサイト・カジノなどがこのカテゴリーに該当する。[iv]
3.間的なウェブサイト(intermediate website)
発明が自明なものである場合には、特許とはならないとするもので、その判断は、先行技術と発明との比較によって行われる。自明性の判断は、一般人にとって自明か否かではなく、その関連技術分野において通常の技術を有する者にとって自明か否かで判断される。また、その者が全ての先行技術を知っていると仮定して自明かどうかが判断されるので、多くの者にとって自明でなくとも、先行技術等を考慮すれば自明であると判断される場合もある。[D]
前述の例では、日本企業Yのウェブサイトがどの種類に該当するかが重要ということになる。XがYのウェブサイトを通じて商品を購入できたのであれば、2.のカテゴリーに該当し、YはNY州で訴えられることになるが、それが単に広告を載せているウェブサイトであり、そこで商品を知ったXが電話等でYから商品を購入したのであれば、1.のカテゴリーに該当し、YはNY州では訴えられないということになる。したがって、日本企業は自社のウェブサイトがどのカテゴリーに分類されるかを検討しておくことが必要である。また、米国での訴訟提起の可能性をできる限り低くするためには、ウェブサイトの利用規約を設けておき、そこに日本の特定の裁判所を専属管轄と定める等の措置が有効である。また、裁判管轄とともに、日本法を準拠法とすると定めることも必要となる。これにより、いざ紛争が生じた場合も日本法により解決することができる。米国の裁判所でもこのような定めは通常有効とされている。[vi]
インーネットを通じて締結された契約は有効か?

ウェブサイトを通じて商品等を購入する場合、契約条項や規約が画面に現れ、「Agree」等というボタンをクリックすることにより先に進めるというものがある。このような形態はクリックラップ契約と呼ばれているが、かかる契約は有効であろうか。書面の契約のように署名もなく、また一方的な条項を受け入れさせるだけということからその有効性に疑問も持たれていたが、現在では、以下に述べる通り、一般的に有効と考えられている

かかるクリックラップ契約を有効と判断した最初の裁判例として、Hotmail事件がある。[vii]この事件において、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所は、ポルノ・グラフィック・サービスの広告等をインターネット利用者に送信するため、多数のHotmailアカウントを取得・利用した被告らは、原告Hotmail社のウェブサイトの規約に違反していると判断した。同裁判所は、クリックラップ契約の有効性を詳しく検討していないが、Hotmailのアカウントを取得するためには、同社のウェブサイト上で規約に対する同意ボタンをクリックしなければならず、かかる判断は、このクリップラップ契約が有効であることを前提としたものと考えられる。その後も、かかるクリップラップ契約を明確に有効とする裁判例が出されており、[viii]今後も、公序良俗に反する条項や不当に一方的な条項を除き、かかる契約は有効と判断されるものと思われる。

ようなドメインネームでも使用することができるか?
ドメインネームとは、「xyz.com」、「abc.org」等のウェブサイトの住所であり、米国では、主にNetwork Solutions, Inc.(以下「NSI」という)が管理している。原則的には、未だ登録されていないドメインネームであれば、NSIに登録し、それを使用することができる。しかし、そのドメインネームが他人の商標権を侵害している場合には、その登録が取り消される場合がある。

Brookfield事件[ix]では、コンピュータ・ソフトウェア等に関して「MovieBuffR」という登録商標を有している原告Brookfield社が、「moviebuff.com」というドメインネームでウェブサイトを運営していた被告West Coast社に対し、このドメインネームの使用禁止を求めた。第9巡回区連邦高等裁判所は、被告のウェブサイトが「MovieBuffR」に類似のデータベースを含んでいるので「MovieBuffR」との混同を生じるとして、原告の請求を認める判決を下した。

また、仮に両者の業務内容が全く異なり、混同の恐れがない場合でも、著名な商標をドメインネームとして使用する場合には、商標権侵害ではなく、商標権の希釈化(dilution)を理由として、ドメインネームの使用禁止が認められる場合がある。希釈化とは、同一ないし類似のマークの使用が著名なマークの特徴的な価値を徐々に損傷していくとの理論である。この理論を採用した事案として、Intermatic事件がある。[x]被告Toeppenは、著名なマークやある会社の商標を後にその権利者に売ることを意図して、ドメインネームとして登録する「サイバー不法占拠者」(cybersquatter)であり、「intermatic.com」というドメインネームを登録していた。原告Intermatic社は、このドメインネームがINTERMATICRという自社の登録商標を侵害しているとして、訴訟を提起した。北イリノイ州地区連邦地方裁判所は、当該ドメインネームの使用が消費者の間に混同を生じさせるとはいえないとして、原告の商標権侵害の主張を退けたが、その奇抜なデザインと過去50年以上にわたる営業上の使用をもとに、当該マークが「著名」であると判断し、希釈化理論に基づき、被告のドメインネームの使用を禁止する判決を下した。

ようなメタタグでも使用することができるか?

メタタグ(metatag)とは、ウェブサイトの内容を記述したHTMLソースコードのことであり、ここで問題とするのは、その中でも「キーワード」として指定されるメタタグである。ヤフー等の検索エンジンは、入力されたキーワードに該当するメタタグを有するウェブサイトを表示する。通常は、そのウェブサイトと関連する語句をキーワード・メタタグとするのであるが(例えば法律事務所のウェブサイトであれば、「法律」「弁護士」「契約」「訴訟」等)、このメタタグの使用に制限はないのであろうか。特に他人の商標等を自己のウェブサイトのメタタグとして使用するような場合に問題となる。

このメタタグが問題となったものとしてPlayboy v. Asiafocus Int’l事件がある。[xi]原告Playboy Enterprises社は、「PLAYBOYR」、「PLAYMATER」等の登録商標を有していたが、被告らは、「asian-playmates.com」等のドメインネームによりアダルト写真等を掲載したウェブサイトを運営し、「Playboy」、「Playmate」をそのメタタグに加えていた。これにより、インターネット利用者が「Playboy」や「Playmate」をキーワードとして検索すると、原告のウェブサイトとともに被告らのウェブサイトも表示されていた。ヴァージニア州東部地区連邦地方裁判所は、かかるメタタグの使用は利用者を意図的に混同させるものであり、商標権侵害等に該当すると判断した。

また、前述のBrookfield事件でも、同裁判所は、被告が「moviebuff」をメタタグとして使用することを禁止している。

ウェブサイトへのリンクは自由にできるか?

あるウェブサイトからリンクされている他のウェブサイトへ自由に移動できることが、インターネットの持つ魅力の1つである。自己のウェブサイトに関連する他人のウェブサイトへリンクを張ることは、利用者の利便にもなる。では、ウェブサイトの所有者に無断でリンクを張ることが常に認められるのであろうか。

この点に関し、Playboy v. Universal Tel-A-Talk事件[xii]がある。被告は、アダルト写真を掲載しているウェブサイトを運営し、その中で原告Playboy Enterprises社の登録商標である「PLAYBOYR」等を用い、また、原告のウェブサイトにリンクも張っていた。ペンシルベニア州東部地区連邦地方裁判所は、この無断リンクにより、被告は、原告の知名度を不当に利用しているとして、かかるリンクを禁止する命令を下した。本件は、被告が原告の知名度を不当に利用しようとしてリンクを張ったことから違法とされたものであり、全ての無断リンクを違法と判断しているわけではないが、問題が生じそうな場合には予め許可を得てからリンクを張るべきである。

また、自己のウェブサイトの中に他人のウェブサイトを取り込むフレイムという方法を使用した場合には、リンク以上に違法となる可能性が高い。リンクの場合には、利用者も別のウェブサイトへ移ったことを認識できるが、フレイムの場合には、元のウェブサイトが外枠として依然として表示されているので、フレイムされたウェブサイトがあたかも元のウェブサイトの一部のように認識される恐れもあるからである。Washington Post事件[xiii]では、この点が問題となり、原告Washington Post社ら多数のニュース配信会社のウェブサイトを自己のウェブサイトにフレイムして取り込んでいた被告は、原告らのウェブサイトにリンクは張ることができるが、フレイムは行わないということで和解が成立している。

で訴訟に巻き込まれないための対策
以上の通り、インターネットに関しては様々な局面で米国で裁判に巻き込まれる可能性があるが、かかる可能性を最小限に抑える方法は、利用規約をウェブサイトに設けることである。前述の通り、裁判管轄および準拠法を日本とするとともに、種々の免責条項を設けておくことも重要となる。そして、前述の通り、クリックラップ契約の有効性が認められていることから、かかる利用規約をクリックラップ契約の形式にし、これに同意しない限り先に進めないとすることが最も確実な方法である。ただ、全てのウェブサイトにこの方法を適用するとその利用が非常に不便になるので、現実的には、ウェブサイトの内容に応じて、対策を講じるべきであろう。すなわち、ウェブサイトを通じて販売等を行う場合は、クリックラップ契約の形式にすべきであるが、単に情報を提供しているに過ぎないウェブサイトでは、そこまでは不要の場合もあろう。ただその場合でも、ウェブサイトのトップページに、分かりやすい形で利用規約のページへのリンクを張る等の工夫は必要であろう。[xiv]
   

[@]

理論的には全てのウェブサイトは米国からアクセスされる可能性があるのであるが、現実的には英文のウェブサイトということになろう。勿論、日本語を解する者が米国からアクセスし、それに基づき米国で訴訟を提起するということも可能性としてはあり得るが。

[A]

Zippo Manufacturing Company v. Zippo Dot Com, Inc., 952 F. Supp. 1119 (W.D. Pa.1997)

[B] Mid City Bowling Lanes & Sports Palace, Inc. v. Ivercrest, Inc., 1999 WL 76446 (E.D. La. 1999)、Desktop Technologies, Inc. v. Colorworks Reproduction & Design, Inc., 1999 WL 98572 (E.D.Pa.1999)など。
[C] Thompson v. Handa-Lopez, Inc., 998 F.Sup. 738 (W.D.Tex.1998)、Decker v. Circus Circus Hotel, 1999 WL 319056 (D.N.J.)など。
[D] Mieczkowski v. Masco Corporation, 997 F.Supp.782 (E.D.Tex. 1998)、Origin Instruments Corp. v. Adaptive Computer Systems, Inc., 1999 WL 76794 (N.D.Tex. 1999)など。
[E] 前記Decker v. Circus Circus Hotel参照。
[F] Hotmail Corp. v. Van$ Money Pie Inc., 47 U.S.P.Q.2d 1020 (N.D.Ca..1998)
[G] Groff v. America Online, Inc., 1998 WL 307001 (R.I.Super. 1998)、Capsi v. Microsoft Network, L.L.C., 323 N. J. Super. 118 (N.J. Super. Ct. App. Div. 1999)など。
[H] Brookfield Communications, Inc. v. West Coast Entertainment Corporation, 174 F.3d 1036 (9th Cir. 1999)
[I] Intermatic Inc. v. Toeppen, 947 F.Supp. 1227 (N.D.Ill. 1996)
[xi ] Playboy Enterprises, Inc. v. Asiafocus Int’l, Inc., 1998 WL 724000 (E.D.Va.1998)
[xii] Playboy Enterprises, Inc. v. Universal Tel-A-Talk, Inc., 1998 WL 767440 (E.D.Pa. 1998)
[xiii] Washington Post Co. v. TotalNews, Inc., Case No.97 Civ. 1190 (PKL)(S.D.N.Y. Complaint filed Feb. 20, 1997)
[xiv] 米国でも商品を直接販売していないウェブサイトの多くは、クリックラップ契約形式ではなく、このような単なるReference形式である。